読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Penguin Diary

PNdesign(ピーエヌデザイン)

  • clothes
  • my partner
  • movie
  • design
  • books

webデザインをお仕事にしている、元アパレルバイヤーの日常記録です。

31 : books【冷静と情熱の間】

何度見ても、何度読んでも
素晴らしいと感じられる映画や本に出会えたなら
人生は豊かに彩られます。


本や映画は常に自分自身に寄り添い、問いかけ、時に現実を忘れさせ、なおかつ一生そばからいなくなることはありません。


悲しいとき、辛いとき、楽しいとき、うれしいとき、どんなときも文学はそこにある。


変わるのは自分の解釈だけ。
変わってしまうのは人の気持ちだけ。


何度も読み返してきた文字のひとつひとつを追えば、様々な気持ちが蘇り、思い返しては消費し、消化し、奥底から這い出してくる過去の記憶を沈めてくれます。


表題の本は、江國香織辻仁成による合作です。
それぞれの作家が、女性サイドと男性サイドでのストーリーを描き、ひとつの本にまとめています。本来はそれぞれのサイドの物語を一冊にし、二冊別々に販売をしていましたが、わたしは愛蔵版のそれぞれのストーリーを一章ずつ交互に組み合わせた本を手元に残しています。


この本はどんなときもそばにいました。

気分が落ち着かないときは
どこのページでもいいから一章読めば、鎮痛剤よりもよっぽど早く、おだやかに作用しました。

30歳の誕生日に、イタリアドゥオモのクーポラで待ち合わせをした過去の恋人を思い返しては
幸せな現実に生きながらも過去の記憶を行き来している2人。

若さとは、ときに激しく、ただただ直情的に、
まっすぐに相手にぶつかり
しかし所以に傷つき、戸惑うものです。
それは若者だけに許される甘く短いひとときの限りある時間です。
大人としての分別をつけることは、それらの気持ちにお別れをつけていくこと。
やがてゆるやかでおだやかな愛情へと人は昇華させていきますが、その短くはかないひとときの強い気持ちと費やした時間は二度と戻ることはない。
人の気持ちに時間は寄り添ってはくれない。

わだかまりは一生わだかまりとして
心のどこかへシコリとして残り
それは何かにすり替えたり、時間の経過ではなくならず、
ずっと気掛かりなシコリのままだ。

それに向き合うか、逃げるか、
すり替えるか、忘れようとするのかは人それぞれだが
時間と足取りは前に進んでいくのだから
後ろに戻ることはできない。

後悔は一生後悔するのだ。

主人公の1人であるアオイは、イタリアでうまれ、日本の大学へ留学し、主人公の1人であるアメリカからの帰国子女ジュンセイと出会った。
西洋画の修復士を志す彼と、自らの血を育んだ日本を知るためにやってきたアオイ。
どこかふわふわと心の拠り所のない2人が惹かれ合うのは至極当然の流れだったに違いない。
世界中で味方はお互いだけだと思ったに違いない。

2人は生き生きとした素晴らしい時間を過ごした。
それまでの2人の人生にはなかったものだった。
それなのに、それが故か、若さ故かの軽はずみな言動と周囲の声の大きさに負け、大きな諍いへと発展する。
些細なことでピストルの引き金をひいてしまった2人は、若さゆえに押しもどす術を知らず、永遠の別れを選択する。


月日は流れ、空いた心の穴をうめるように
それぞれの人生を生き始めていたが
死にゆく人に残された余生のような
そんな空洞があった。

期待しない、あのときのように好きにならない、傷つかない、傷つけない、干渉しない、干渉させない、甘えない、深入りしない。

避けて、避けて、避けるのだ。

その空洞をうめる術を失くしたら
死んだも同然なのだ。

そんなネガティヴな要素しかないように思えるが、ただひたすらに誰かを思い、愛する人がたくさんでてくる。
愛の形は様々で、ぴったりとはまることはそうない。

ここに描かれているのは
そんな様々な愛の形だ。
だから、何度読んでもわたしは泣いてしまうのだろう。